今年の築城は8月4日の土曜日に行われた。気温は高かったが空に雲が多く、日焼けのことを考えれば、まずまずの日和だったといえるだろう。
例によって会長・笠井がスコップを波打ち際に打ち立て、ビールなど飲みながら待っていると、珍しや若手イラストレーター山口啓一くんが声をかけてきた。かつて、彼のイラストの師である山崎隆史先生と共に築城に初参加したのは、6〜7年も前のことだったろうか。山口くんは、親しい関係にあるという女性を伴っていた。江ノ城会は、いかなる形の男女関係も自由であり、男×男関係や女×女関係であろうとも「ご勝手に」というフトコロの深い会であるので、むろん大歓迎である。
次いで幸山副会長、パタ先生とお友達のデザイナーぴぃさんも到着したので、この時点で総勢6名。弁当など食べながら、プランを話し合う。今年、笠井は新しいプランを用意できず(汗)、去年の設計図を持参した。当会において設計図は一応の目安という程度のもので、その場の思いつきで自在に変わっていくから、出来上がりが同じになる心配はないのだ。
いちばんきつい土台造りや踏み固め・土羽打ちは、若い山口くんにガンバってもらう。しかし笠井も、この日のために春先からストレッチ・腕立て伏せ・シットアップなどを日課にして鍛えてきたので、例年よりも力強く振る舞うことができた(と思う)。
そうこうしているうちに、悲運の就活姫・永瀬美由樹、もっこすデザイナー村上祥子もやってきて、総勢8名の陣容が整った。
例によってメインタワーと正面の階段は笠井・幸山が担当。左前方側面を山口カップル、同後方側面を二日酔いで「吐きそ〜」な村上、右側面をパタ先生と永瀬、後方をぴぃが担当。ベテランが多いので、思い思いに工夫をこらして中小のタワーや階段をつくっていった。
二度目の参加ながら凝った細工を施して目を見張らせたのが山口。折れ曲がった城壁に小じゃれた扉をつくり込み、さすがのセンスを見せた。パタ先生と永瀬姫は、なんと「テルマエ」造りに挑戦。城内から流れ出てきた湯が、滝のように落ちて大浴槽に貯まる構造にしたと、ルシウス技師に“なりきり気分”で胸を張る。あきれるのは、その時点で「テルマエ・ロマエ」の漫画を目にしていなかったという事実(笑)。1巻〜3巻を所持している笠井が、急きょ貸与する羽目になった次第である
。
左右両翼が個性的なデザインになったことから、なかなか面白い城になりつつあった。その時、突然雲行きが怪しくなり、ポツリポツリと雨が…。「ま、本降りになることはないだろう」と高をくくって、それでも仕上げを急いでいるうちに、だんだん雨粒の数が増え、帽子やシャツが濡れる感じになってきた。
「ヤバい!」。あわてて周辺をきれいにして、とにかく写真を撮る。その間にも女性軍はビーチマットをたたむなど、撤収の準備にかかっていた。ここ江ノ島で20年も築城してきたが、作業中に降られたのは初めてのこと。完成の歓びにひたるいとまもなく、砂にまみれた姿で、近くの歩道橋の下に避難したのだった。
雨はすぐには止まなかった。“吐きそう”村上は「次の約束があるので〜」と雨の中を疾走。ぴぃさんは「男友達が近くに来てるので〜」といずこかへ遁走。山口カップルは「バイクで来たので〜」と手に手を取って爆走…YO!
残された4人は、海辺の公衆トイレで砂を洗い流すなどして時間をつぶし、ようやく小降りになった4時過ぎに、片瀬江ノ島駅へ向かった。
打ち上げは駅前の「道楽や ねこん家」という、いまだ読み方すら定かでない店。4人なのでいつもの板の間に上がらず、普通のテーブル席で乾杯する。この日の歓談は永瀬姫の就活苦労話から始まったが、聞いているうちに、実はこの姫、あの「嫌われマツコ」を思わせる悲劇のヒロインであることが判明。あっけらかんとした陽気なキャラとのギャップに、男性陣は仰天した。もっとも姫と長い付き合いのパタ先生は、「またか〜」と思っていたと、のちのち述懐しているが…。
ところで遁走したぴぃさんは、サーファー系の男友達が戻って来ないので、雨の中、ひとり浜辺に立ちつくしていたという。その時、通りがかりの馬鹿な悪ガキどもが、砂の城を蹴り飛ばして破壊するのを目撃し、なんともいえない気持になったそうだ。寄せ来る波に崩される砂の城は美しいが、心無い馬鹿者に蹴り倒される姿は痛ましい!
哀しいYO! 情けないYO! 日本これでいいのかYO!
Text:N.Kasai
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