編集者・ライターと江の島をロケハン

 5月の中頃(2015年)、大手出版社のS社から連絡があり、児童向け月刊誌に砂の城づくりの記事を掲載したいので、協力してもらえないかと頼まれた。子どもたちに城づくりの基本を教える内容ということなので、喜んでお引き受けする。
 ぶっつけ本番というのも不安なので、6月5日にロケハンをすることになった。編集担当のN子さん、ライターのマキさんと、「片瀬江ノ島」駅で待ち合わせ。海水浴シーズンを前にして、海の家の建設工事が進んでいる砂浜を、鵠沼・辻堂方面へ歩きながら適地を探した。諸条件から、やはり我々がいつも築城している、水族館の下あたりがよさそうということになる。
 集合場所、駐車場なども確認してから、海岸通りへ上がり、最近評判のカジュアルレストラン「エッグスンシングス湘南江の島店」で細部の打ち合わせ。余談になるが、この店のパンケーキやワッフルにトッピングされているホイップクリームのボリュームは“日本離れ”している。高さ20センチ近くまでドカ〜ンと盛り上がっているのだ。

大小2つの城をつくることに

 本番当日の6月7日は、11時45分に笠井が先着。12時ちょっと過ぎにマキさん、N子さんとカメラマン、パタ先生がやって来る。10分ほど遅れてモデルを務める4人家族とトシモト社中のトシモトが到着。これでメンバーが揃った。幸山副会長にも声をかけたが、岩手県の渓流へフライフィッシングに行く予定が入っているとのことで、残念ながら不参加。
 今日は、子どもがつくる「ちっちゃい城」と、親が手伝う「おっきい城」の2つを築城することになっている。大まかな完成予想図は、事前に笠井が用意。まず、「ちっちゃい城」を短時間で仕上げることにして、パタ先生、トシモトと3人で作業を開始した。
 小さい城なので、土台となる山は築かず、やにわに大バケツで下段を成型することに。バケツで型取りする砂は、波打ち際の濡れた粘りのある砂でなければならない。そのコツをライターのマキさんに伝授する。必要な技術として、記事内に文章化しなければならないからだ。マキさんはノートを持って笠井の後を追い、作業手順をメモしていく。ここがライター仕事の大変なところだということは、同業の笠井も承知している。
 濡れた砂が詰まったバケツをトントン叩いてゆっくりはずしていくが、各工程で一時ストップし、モデル家族と代わって写真を撮る。パパ役の男性は演技上手で、手際がサマになっていた。
 1時間ほどで「ちっちゃい城」は完成。あたかも自分がつくったような得意顔の子どもたちの写真を撮ろうとするが、3歳くらいの女の子がなかなか笑ってくれない。パパとママは何とか笑わせようと必死。いつもながら、幼児がらみの撮影は大変だ。

見学者が大勢やってきた!

 ま、「ちっちゃい城」は小手調べ。やおら「おっきい城」に取りかかる。今度は山を築かなければならないので、若いトシモトにがんばってもらう。踏み固めは、N子さん、マキさん、モデルのお母さんにも力を借りた。
 正面の削り出しは笠井とパタ先生が担当。側面はトシモトに任せる。後方は、写真に写らないので、ざっくり切り落としておけばいいだろう。定規による窓開け、スプーンによる門づくりなどをひと通りやってみせ、N子さんやマキさんにも参加してもらう。N子さんはカップを使ってパカッとくり抜く門のアーチづくりが特に気に入ったようで、「これ、気持ちい〜い!」と嬌声を上げていた。
 こんな状態のとき、N子さんやマキさんの仕事仲間が、次々と見学にやってきた。なんでも、「仕事で、江の島に砂の城をつくりに行くの」と話したら、「見てみた〜い!」と希望者が続出したそうだ。周りを取り囲んで、写真を撮ったり、おしゃべりしたり、すっかりにぎやかなった。ま、それはそれで楽しく、仕事というより遊びの気分になっていった。
 さて、気を付けなくてはならないのは、今回、あまり上手につくってはいけないということだ。あくまでも、子どもたちがつくるお城を、親が手伝って完成させたという設定だから…。とはいっても、本当に初心者でもつくれるような城では、本に載せる写真として見栄えがしない。そこそこの出来で、もしかしたら素人でもできるかな…というギリギリの線をねらう必要がある。ちょっと乱暴に、手早くつくるのがよさそうだ。
 2時間ほどで「おっきい城」も完成。モデル家族の写真を撮ったあと、我々関係者や見学者が、入れ替わり立ち替わり、さまざまな組み合わせで記念撮影。無事に仕事を終えたのだった。

大きい城

地元民に愛されるシブいお店で打上げ

 いつもと違うことがある。城が波に崩されるシーンまで、見届けることはないのだ。完成形の写真を撮ってしまえば、仕事としては、そこで「おつかれさま」。その場で解散となった。
 時間は、まだ4時過ぎ。そこで笠井が一つの提案をした。江の島の島内に、観光客相手ではなく、地元の人が通うシブい魚料理屋があるので、そこで“打ち上げ”をやらないかと。パタ先生、トシモトが即座に同意。見学に来ていたイラストレーターの岡さん(女性)も「そういうお店大好き。行きたい、行きたい」。N子さんは家庭の都合があって不参加。マキさんはお友だちが何人も来ているので、皆でお茶などしてから、のちほど合流という運びになった。
金目 その店は、江ノ島の表通りにはなく、漁師町でひっそり営業している。観光客に知られるとロクなことがないので、ここでは店名を明かさない。30分ほど待たされたが、2階の座敷に上がることができ、「キンメ鯛煮つけ定食」「焼きハマグリ」「釜揚げしらす」「刺身定食」「あら煮」などを注文。それぞれのボリュームが半端でなく、一同、「これこそ穴場だ!」と感動していた。5時30分に合流したマキさんも、「わ〜っ、私の分も取っといてくれたんだ、ありがとう!」と嬌声。多少味は落ちたかもしれないが、充分満足してもらえたようだった。

 記事の掲載は8月に入ってすぐとのこと。この夏、子どもと海へ行こうと思っていたお父さんやお母さんが、「あら、面白い。これくらいなら私たちにもできそうだわ」と思って、砂の城づくりにチャレンジしてくれたらうれしいのだが…。

 

Text:N.Kasai

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