8月3日の築城日は、多少雲があったものの日差しは強く、暑い一日となった。
海の家が並ぶあたりの浜はかなりの人出だったので、12時前に到着していた会長・笠井と副会長・幸山が相談し、いつもより100mほど辻堂寄りの場所に陣取った。間もなくイラストレーターのパタ先生と、後輩イラストレーター野田和美さんが到着。続いてトシモト社中の3青年(長井・綿貫・山田)が、お花見で知り合ったという若い女性(斎藤敦子さん)を伴ってやって来た。さらに、城つくりの初期メンバーで“階段職人第一号”の称号を持つラーメン屋の知久も参加。小人数ながら経験豊富なメンバーがそろった。
今年の浜辺は、いつもとちょっと違う感じだった。満潮時に砂の上に残る濡れ跡が、不思議なほど波打ち際に近いのだ。わずか15mほどだったろうか。しかし、それより上は白く乾いていたので、境界線のあたりを築城場所と決めた。
笠井が持参した今年の城のイメージプランは、メインタワーの左右に高さの異なるタワーを配するというもの。ここ2年、四角い箱型の城をつくってきたので、大きく変えてみたのだ。
トシモト社中の若い3人がいるので、土台造りは思いのほかははかどった。しかし、砂の状態が良くない。いつもよりザラザラした感じで、貝殻の破片が多く混じっている。そのため、最初に大きなバケツを使って型どりしたメインタワーは、もろくも崩壊してしまった。何度もやりなおしながら、ようやくタワーの原型をつくり、削り作業に入る。
そんなとき、「わ〜、素敵! 何つくるんですか〜?」と嬌声を上げて若い女性が近づいてきた。「こういうのやってみたかったの〜」と言うので、「じゃ、一緒にやりましょう」ということになった。彼女の夫という男性も犬を抱いてやって来て、女性軍はその犬が「かわいい」「かわいい」と大騒ぎ。ちょっと変わった展開とになった。
さて、城の正面は今年も幸山副会長が担当していたが、メインタワーがほぼ完成し、階段造りに取りかかるとき、「ここは階段職人にお願いしますよ」とラーメン屋の知久に声をかけた。
「いや、僕は久しぶりの参加で自信がないから…」と殊勝なことを口にする知久だが、この男、日本人には珍しいほどの自信家かつ自慢屋なので、再度すすめられれば「いや」とは言わない。長めのカネ尺を手に作業を開始した。幸山副会長は左側面の造営に移る。
パタ先生とノダちゃんは、背面に回って、またテルマエをつくり始めた。その方面には、遅れてやって来た悲運の就活姫・ナガセも参加している。
半分くらいできたころ、トシモト社中が、「30分ほどで潮が満ちてきて、城の所まで波が来るとライフセーバーに忠告された」と言ってくる。確かに、波が迫ってきた感はある。作業を急ぐことにして、せっせ、せっせと小窓をつくったり、胸壁を整備したりする。一方で、社中の若い衆や犬を抱いてきた夫たちは、スコップを手に防波堤を築き始めた。
手慣れたメンバーが多いため、作業はどんどん進む。また、今年の城は構造がシンプルだったので、思ったより早く完成した。時計を見ると、まだ3時前。ちょうどその頃、もっこすデザイナー村上と怪僧・吉田がやって来て、「あらら、もうできちゃったの」と驚いていた。
正直なところ、今年の城の出来栄えはイマイチ。急造のため下部はごまかしが多く、仕上げも粗い。だが、2時間ほどでここまでできたというのは驚異的だし、全体のバランスは悪くないように思えた。
さて、作業を急がせた満ち潮だが、どうした訳か、城の手前でぴたりと止まってしまった。ビールなど飲みながら待つのだが、いっこうに寄せてこない。思うに、このあたりの砂浜の傾斜がけっこうきついので、上がってこれないのだろう。つまり、我々の位置決めは正しかったのだ。そして、ライフセーバーの忠告は大はずれで、余計なおせっかいだったということになる。
待つこと実に2時間近く。たまりかねて防波堤に穴を開け、城の下を掘り下げる。それでもなかなか波はこなかったが、4時半を過ぎたころ、ようやく足元に到達するようになり、突然、メインタワーがどどっと倒壊した。皆がその瞬間を撮ろうとしていたが、結局、だれも成功しなかったようだ、言い換えれば、それほど不意の出来事だったということになる。
倒れたメインタワーの残骸の中に、なんと、十字架を刻んだ城の頂上部分が美しい姿をとどめており、実にドラマチックな光景だったことを言い添えておこう。
反省会を開こうといつもの「ねこん家」に行ってみると、10人という数だったため入れない。時間が早いせいもあったろう。そこで、境川の橋を渡った向こう側の商店街にある「清光園」に行くと、ここは空いていた。閉店時間が早いので敬遠していた店なのだが、まだ5時頃なのでたっぷり時間がある。皆でいろいろなものを注文し、にぎやかな宴会となった。
メモリアルなことが一つ。トシモト社中と一緒に来た斎藤アッチャンは、人生で一度もザザエを食べたことがないという。そこで、壺焼きを注文し、一同注視のなかで初体験をさせたのだった。食べてみたら、「美味しかった!」とのこと。以上。
Text:N.Kasai
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